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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(あ)515号 決定 1982年2月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人佐々木哲蔵、同後藤貞人の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、同第二点ないし第四点は、事実誤認ないしは単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。

判旨なお、上告趣意第一点にかんがみ職権をもつて判断するに、幇助罪は正犯の犯行を幇助することによつて成立するものであるから、成立すべき幇助罪の個数については、正犯の罪のそれに従つて決定されるものと解するのが相当である。原判決の是認する第一審判決によれば、被告人は、正犯らが二回にわたり覚せい剤を密輸入し、二個の覚せい剤取締法違反の罪を犯した際、覚せい剤の仕入資金にあてられることを知りながら、正犯の一人から渡された現金等を銀行保証小切手にかえて同人に交付し、もつて正犯らの右各犯行を幇助したというのであるから、たとえ被告人の幇助行為が一個であつても、二個の覚せい剤取締法違反幇助の罪が成立すると解すべきである。この点に関する原審の判断は、結論において相当である。

判旨ところで、右のよう幇助罪が数個成立する場合において、それらが刑法五四条一項にいう一個の行為によるものであるか否かについては、幇助犯における行為は幇助犯のした幇助行為そのものにほかならないと解するのが相当であるから、幇助行為それ自体についてこれをみるべきである。本件における前示の事実関係のもとにおいては、被告人の幇助行為は一個と認められるから、たとえ正犯の罪が併合罪の関係にあつても、被告人の二個の覚せい剤取締法違反幇助の罪は観念的競合の関係にあると解すべきである。そうすると、原判決が右の二個の幇助罪を併合罪の関係にあるとしているのは、誤りであるといわなければならない。しかしながら、この違法は、いまだ刑訴法四一一条により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(藤﨑萬里 団藤重光 本山亨 中村治朗 谷口正孝)

弁護人佐々木哲蔵、同後藤貞人の上告趣意

第一点 原判決は大審院の判例と相反する判断をしているので、破棄さるべきである。

一、原判決は、第一審判示第一の事実について、「幇助犯の罪は正犯の罪に随伴して成立するものであるから、幇助犯の罪数は正犯の罪数に従うべきものであり、幇助行為が一回か数回かは幇助犯の罪数を左右するものではないと解するのが相当(大審院大正二年四月一七日、昭和七年五月三〇日、昭和一五年一〇月二一日各判決参照)であつて、このことは所論のように正犯が被告人の関知しない事情によつて、たまたま二回にわけて覚せい剤を各別に密輸入したため、右正犯の各密輸入の行為が併合罪として処断される関係になつた場合においても異るところはないから、原判決が被告人の原判示第一の行為を二個の幇助犯と構成し、それらが併合罪の関係に立つものとして処断したのは正当であつて、原判決には所論のような法令解釈適用の誤りは存しない」と判示して第一審裁判所の判断を維持した。

二、しかし、原判決の右の部分は、「従犯ハ正犯カ少クトモ実行々為ニ着手スルニ因リテ初メテ成立スルモノナルモ従犯カ想像的競合犯ヲ構成スルヤ連続犯ヲ構成スルヤ将タ併合罪ヲ構成スルヤハ正犯ノ罪数ヲ標準トシテ之ヲ決定スヘキモノニ非スシテ従犯ノ行為自体ヲ標準トシテ之ヲ決定スルヲ相当トス故ニ或ル罪名ニ触ルル行為カ同時ニ他ノ罪名ノ幇助行為ナルトキハ之ヲ想像的競合犯トシテ処断スヘク又斯ル行為ヲ連続シテ為ストキハ正犯カ数人ナルトキト雖之ヲ連続犯トシテ処断スヘキモノニシテ正犯ノ数ニ応スル数箇ノ犯罪トシテ処断スヘキモノニ非ス(当院大正十年(れ)第六八号同年三月一四日判決、大正十五年(れ)第一二四七号大正十一年十一月二日判決、昭和十六年(れ)第五九号同年七月十五日判決参照)」と判示した大審院昭和一七年八月一一日判決に違反する。

三、第一審判決の事実摘示にある被告人の「幇助行為」は、(野田らの渡韓に先だつ)昭和四九年九月二日に、野田から依頼を受けて二四〇〇万円を預かり、これを銀行保証小切手に換え同人に交付したというもので、被告人の行為は一個である。そして、若し仮りに正犯たる野田、中林が九月一三日もしくは同月一四日のいづれかの日に本件約三キロ五〇〇グラムの覚せい剤紛末を一括して輸入していれば、幇助犯たる被告人の行為も単純な一剤として処断されるべきは疑いがない。然るに、被告人の全く関知しない事情により隅々正犯が二日にわたつて別々に覚せい剤を密輸入したからといつて、その故に右一罪として処断される場合と何ら異なるところのない被告人の行為が併合罪として処断されると解するのは明らかに不合理である。

したがつて、本件にあつては第一審判示第一の所為は本来一罪として処断されるべきものであり、そのように解することが、前示大審院判例にも沿うものである。

四、なお、原判決のあげる大審院大正二年四月一七日、昭和七年五月三〇日、昭和一五年一〇月二一日の各判決は、共犯従属性説の不当な適用であるといわなければならず、多くの学説が右判決を厳しく批判していることは周知のとおりである。

<第二点以下、省略>

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